TCFD提言に基づく情報開示

気候関連財務情報開示タスクフォースの提言への賛同

飯野海運グループでは、サステナビリティ基本方針において気候変動への積極的な対応について定めるとともに、気候変動や温室効果ガス(GHG)削減への対応として「脱炭素社会へ向けた取組み」をマテリアリティ(サステナビリティ重要課題)と位置づけています。

気候変動やGHG削減の取組みを推進していく上で、2021年7月には気候関連財務情報開示タスクフォースの提言(以下、「TCFD提言」)に賛同を表明し、気候変動がもたらす事業へのリスクと機会について、その分析と対応を強化し、関連情報の開示拡充を進めています。

※TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、G20財務大臣および中央銀行総裁の意向を受け、金融安定理事会(FSB)が設置した作業部会のことです。気候変動がもたらす「リスク」および「機会」を把握し、開示することを狙いとした提言を公表しています。

ガバナンス

当社グループでは環境問題への取組みを経営上の重要課題と位置づけ、グループ全体で取組みの検討および進捗の管理を行っています。環境問題を議論する組織として、代表取締役社長を委員長とし、すべての業務執行取締役ならびに主要なグループ会社社長を含むメンバーを委員とする安全環境委員会を設置しています。安全環境委員会は全社的なリスク管理活動を統括するリスク管理委員会の下、当社及び当社グループ各社に共通する安全及び環境に関係する政策立案とその推進を担当する委員会として位置づけられており、毎月1回定期的に開催しています。また、安全環境委員会は当社グループのサービス・活動の環境側面の評価を行っており、重要と判断されたサステナビリティ関連課題に対してはリスク管理委員会、経営執行協議会、そして取締役会で監視・監督する体制としています。また、代表取締役社長は当社グループにおける気候変動問題の責任者の役割も担っています。

なお、当社グループは脱炭素社会の実現をマテリアリティとして特定しており、また中期経営計画においても社会的価値の創造を重点戦略に掲げています。当社グループは役員全員でESG経営を積極的に推進し、サステナビリティに重点を置いた経営をより一層強化していきます。

※ガバナンス体制図はガバナンスの強化をご覧ください。

リスク管理

当社グループでは、代表取締役社長を委員長とし、すべての業務執行取締役ならびに主要なグループ会社社長を含むメンバーで構成された安全環境委員会を中心に、気候関連リスク・機会の特定、評価と管理を実施しています。また、サステナビリティ推進部、および同部内の部門横断的な組織である環境推進ワーキングチームが連携し、気候変動対応を含む環境課題に関する計画・立案を行い、安全環境委員会に定期的に報告をしています。

事業経営において重要と特定、評価された気候関連リスクは、グループ全体のリスクに関する方針や管理を扱うリスク管理委員会において、全社的なリスク管理のプロセスに組み込まれて管理されています。

気候関連リスクは、中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」(2023年4月~2026年3月)にも反映されており、2050年カーボンニュートラル達成に向けたロードマップの策定や、環境負荷低減に資するクリーンエネルギーの輸送、次世代燃料船への投資などの当社グループの戦略に反映されています。

戦略

将来の世界観

当社グループは、TCFD提言に基づき、2つのシナリオ(「脱炭素シナリオ」と「成り行きシナリオ」)で想定される将来の世界観を踏まえ、重要なリスクと機会を抽出、特定しています。

各シナリオで想定される世界観

当社グループ事業(海運業、不動産業)で想定される世界観は以下の通りです。
脱炭素シナリオ脱炭素社会への移行に伴う社会変化が事業に影響を及ぼすシナリオ 成り行きシナリオ気候変動緩和策が奏功せず、成り行きで温暖化が進行した状況が事業に影響を及ぼすシナリオ
外部シナリオ

IEA, World Energy Outlook 2023

  • 2050年ネットゼロエミッション実現シナリオ(NZE)
  • 表明公約シナリオ(APS) など

IEA, World Energy Outlook 2023

  • 公表政策シナリオ(STEPS)など
想定される世界観

今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃未満に抑え、持続可能な発展を実現させるために、野心的な政策や環境技術革新が進められる。

パリ協定に則して各国が目標達成に向けた政策を実施するも、各国の協調、環境技術開発、エネルギー転換等が不十分なものとなり、今世紀末までの平均気温が2.5℃程度上昇する。

海運業

海運業

【政策・規制】

  • 気候変動対策と経済成長の両立政策
  • グローバルでのカーボンプライシングとカーボンプライス上昇
  • IMOやEU・米国による環境規制のさらなる強化

【経済・市場】

  • モーダルシフトの進展
  • 化石燃料から再生可能エネルギーへの移行の進展
  • 顧客企業による脱炭素サービスの選好

【技術】

  • 次世代船舶、次世代燃料の普及

【政策・規制】

  • 自国の経済成長優先

【経済・市場】

  • グローバルでの著しい経済成長
  • 化石燃料依存、化石燃料価格の横ばい傾向

【環境】

  • 風水災の激甚化、気象現象の両極端化
  • 海面上昇、気温・水温上昇等の慢性的変化の加速

不動産業

不動産業

【政策・規制】

  • 建物のエネルギー性能に関する規制強化
  • 企業に対する情報開示義務の拡大
  • グローバルでのカーボンプライシングとカーボンプライス上昇

【経済・市場】

  • 環境、健康、快適性を重視する企業による環境認証取得ビルの選好
  • 電源構成の変化(再エネ電力への移行)による系統電力の排出係数の減少と電気代の上昇

【技術】

  • 建物の省エネに関する環境技術の進展

【政策・規制】

  • 建物のエネルギー性能に関する規制の形骸化

【経済・市場】

  • 化石燃料依存、化石燃料価格の高騰

【技術】

  • 環境技術開発投資の伸びの停滞

【環境】

  • 風水害の激甚化、気象現象の両極端化
  • 気温・水温上昇等の慢性的変化の加速

各シナリオで顕著となるリスクと機会

2つのシナリオで想定される世界観における重要なリスクと機会は以下の通りです。
脱炭素シナリオ脱炭素社会への移行に伴う社会変化が事業に影響を及ぼすシナリオ 成り行きシナリオ気候変動緩和策が奏功せず、成り行きで温暖化が進行した状況が事業に影響を及ぼすシナリオ
各シナリオにおいて顕著となる主なリスク

海運業

海運業

  • 化石燃料の需要減による売上の減少
  • カーボンプライシングによる操業コストの増加
  • 燃費規制対応による船舶建造費の増加
  • 燃費規制対応(次世代燃料使用)に向けた新技術導入コストや燃料費の増加
  • 地政学的な緊張、供給チェーンの不安定化等に起因する化石燃料の需要増による燃料費の増加
  • 荒天遭遇時の船体・機器損傷による修繕費の増加、航路変更による運航費の増加
  • 気温・海水温上昇に伴う船舶の修繕費等の増加
  • 農作物の収量減少による売上の減少

不動産業

不動産業

  • 建物の省エネ化に関する建設・改修コストの増加
  • 立地エリアにおいて保有ビルの環境性能等が劣後した場合、賃料、入居率、資産価値の下落
  • 風水害の激甚化による設備投資コストや操業コストの増加、収益減少
各シナリオにおいて顕著となる主な機会

海運業

海運業

  • クリーンエネルギー源(水素、アンモニア、バイオ燃料等)の需要増による売上の増加
  • 洋上風力発電に関する物資輸送、CCUS(CO2回収・貯留・有効利用)でのCO2輸送等に関する事業機会の創出
  • 運航の低炭素化、次世代燃料の中長期的な価格下落による運航費の削減
  • GHG排出係数が小さい化石燃料(LNG等)の需要増による売上の増加
  • エネルギー調達の安定化に向けたLNGの需要増による売上の増加
  • 海面上昇に伴う沿岸の防災工事に関する物資輸送の需要増による売上の増加

不動産業

不動産業

  • 環境認証取得ビルの賃貸収入の増加
  • 保有ビルの省エネ化・創エネ化による光熱費の圧縮
  • 環境技術の進展による省エネ・創エネ工事費用の抑制
  • ビルの計画的な補修・補強によるレジリエンスの向上
  • 災害に強い物件の需要の増加による賃貸収入の増加

海運業における移行リスク

移行リスクと対応策および機会
リスク 時間軸 対応策および機会
脱炭素社会に向けた
輸送物資の変化
短期※1
  • 次世代燃料船の取組み強化
中長期※2
  • LNGやアンモニアなどのクリーンな貨物輸送等、サステナブルな貨物への取組みの強化
  • 環境負荷低減に資する資産への投資を推進

※1 短期とは2年程度の比較的短い期間のこと。

※2 中長期とは2年以上の期間のこと。

海運業における物理的リスク

物理的リスクと対応策および機会
リスク 時間軸 対応策および機会
台風などの
異常気象の発生
短期※1
  • 気象・海象データを衛星通信で収集
  • 気象情報サービス会社により提供される(気象・海象予測に基づく)最適な航路選定の支援サービスを利用
中長期※2
  • 気候変動対策としてGHG排出量を削減可能な二元燃料主機関搭載船やゼロエミッション船への投資を推進

※1 短期とは2年程度の比較的短い期間のこと。

※2 中長期とは2年以上の期間のこと。

リスクに対応するためのコスト(ITシステムの使用)

船舶の運航管理システムや海陸(船舶と陸上)間と船同士のコミュニケーションに使用する通信機器などのITシステムの利用により、年間約14百万円の費用が発生しました。

財務上の潜在的影響額

航路上に台風が発生した場合、船舶は台風を避けるために航路から離れて航行(離路)する必要があります。離路に伴い年間約約983百万円の追加費用が発生する可能性があります。

不動産業における物理的リスク

物理的リスクと対応策および機会
リスク 時間軸 対応策および機会
洪水などの水害の発生 短期※1
  • 自然災害発生時の迅速な対応を可能とするBCPの策定
  • ハザードマップで浸水の可能性があるオフィスビルは、電気制御室などの重要機器を配置するスペースを上層階に設置
  • 比較的海抜の低い場所に位置しており、雨水の浸入による被害が予想されるビルにおいて、防潮設備を設置
  • すべての国内所有オフィスビルにおいて災害に備えるための保険に加入
中長期※2
  • 対応策を通じた不動産価値の上昇

※1 短期とは2年程度の比較的短い期間のこと。

※2 中長期とは2年以上の期間のこと。

リスクに対応するためのコスト

すべての国内所有オフィスビルにおいて災害に備えるために保険の加入が必要となり、一部のオフィスビルでは約10百万円の費用が発生します。

また、当社所有の一部のオフィスビルは、比較的海抜の低い場所に位置しており、雨水の浸入の可能性があります。このリスクに対処するため、1階防潮板、地下防水板を設置し、約45百万円の費用が発生します。

財務上の潜在的影響額

当社所有の一部オフィスビルのリスク調査をリスクコンサルティング会社が行った結果、水害リスクとして約3,700百万円の損害が発生する可能性があることが判明しています。この損害額については、加入している上記保険によりカバーされる予定です。

今後の対応戦略

海運業

シナリオ分析の実施により、脱炭素社会への移行が当社グループに及ぼす影響が明らかになりました。主要貨物である化石燃料の海上輸送需要は低下する一方、クリーンエネルギー燃料等、新たな輸送需要の発生も見込まれます。これらの輸送物資の変化に適切に対応することで、化石燃料輸送の減少による売上減少を上回る新たな事業機会からの売上増加が期待できると認識しています。

当社グループでは、脱炭素社会への移行を見据えて、環境負荷低減に貢献するクリーンエネルギーの輸送や次世代燃料船への投資を積極的に推進します。

不動産業

所有するビルに対し、非化石証書付電力の購入、カーボンニュートラル都市ガスの導入、照明のLED化、太陽光パネルの設置、設備機器の省エネ運用など、温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた取組みを既に進めています。

これからの脱炭素社会への移行に伴い、オフィスビルの更なる省エネルギー化と再生エネルギー化を検討していきます。

指標と目標

GHG排出量の削減

当社グループでは、気候変動への対応と脱炭素社会の実現に向けて、2030年度および2050年の削減目標を下記の通り設定し、GHG排出量の削減に取り組んでいます。

目標
海運業 2030年度:2020年度比20%削減(トンマイル当たり)
2050年:カーボンニュートラル
不動産業 2030年度:2013年度比75%削減(総量)
2050年:カーボンニュートラル

データ集(GHG/CO2排出量の削減率)