安全・安心の追求
方針・戦略
基本的な考え方
飯野海運グループでは、企業理念で最優先に掲げる安全の確保に関し、サステナビリティ基本方針においても「飯野海運グループは、安全の確保を経営上の最優先課題とします。」と定め、従業員や業務委託先を含む取引先の安全の確保を目指しています。事業活動に伴い発生する人命、船舶、ビルの安全を脅かす災害対策や事故の原因究明および再発防止策を協議し、予防措置も含めた安全対策の徹底と強化を図っています。2023年度の主な目標として、海運業では、一航海当たりの事故の発生を0件、船員の労働災害発生度数率を0.4以下と設定し、不動産業では、イイノ・ビルテック株式会社(IBT)の労災認定者数を0件にすること、事故・トラブル発生の減少(人的要因:0件以下、設備的要因:0件以下)を目標としています。また、当社グループは中期経営計画において重大事故発生件数を0件(2022年度実績0件)とする非財務数値目標を掲げ、安全の確保に積極的に取組んでいます。
体制
取締役レベルの安全の監督
当社グループ内で発生した事故や災害については、当社代表取締役社長が委員長を務め、取締役がメンバーとなっている安全環境委員会(安全環境委員会規程に基づき常設)にて原因究明および再発防止策を協議し、予防措置も含めた安全対策の徹底と強化を図ります。また、油濁等の環境汚染や人命・財産に係る重大な事故・トラブル・大規模災害が発生した場合などの緊急時においては、「危機管理基本規程」に基づき、当社代表取締役社長を本部長とする緊急対策本部を設置し、危機管理に対応します。
労働問題に関するリスク評価
労働時間や健康状態のモニタリングを行い、従業員の労働安全に関するリスクを把握し労使ならびに各部門の責任者と情報共有のうえ、改善に向けた対応を行っています。
取組み
労使間の対話
当社は、労使間協議の実現手段として従業員の団結権および団体交渉権を尊重しています。当社と飯野海運労働組合は、会社の発展、労使関係および事業活動の円滑化のため定期的に対話の場を設けています。労使代表の対話の場として労使共同の衛生委員会を月1回開催し、労働時間管理や安全衛生について議論しています。また、必要に応じて組合員の出向や給与、手当等の賃金制度などについて幅広く意見交換をする場を設けており、組合員の安全と健康確保を強化するとともに、快適な職場環境の整備に労使協働で取組んでいます。なお、当社の陸上職員の労働組合加入率は100%となっています。
いじめやハラスメントに関する取組み
当社グループの役職員を対象として、顧問弁護士を招いて年に一度ハラスメント防止のための講習会を開催しています。講習会ではハラスメントの定義や事例、防止策、ハラスメントが発生した際の相談窓口や相談を受けた際の心構えなどについて説明を行い、職場における役職員のハラスメントに関する意識の向上を図っています。
また、当社グループの役職員(役員、正社員、契約社員、嘱託社員、派遣社員、出向社員、パートタイマーおよびアルバイト、退職者を含む)及び取引先関係者が、社内に違法行為や企業倫理に違反する行為がある、またはその懸念があると判断した場合に、会社が速やかにその事実を確認し適正な是正措置を講じることができるよう、セクシャルハラスメント及びパワーハラスメントの防止に関する規程に規定する相談窓口、コンプライアンス規程に基づく報告制度、外部通報制度※を設けています。
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- 詳細は、コンプライアンスの徹底をご覧ください。
当社の労働安全衛生
当社では、定期健康診断を毎年2回実施するほか、産業医との個別面談を月1回実施し、従業員の健康と安全の維持向上に努めています。
労働災害の発生状況
2022年度の当社、IBT、イイノマリンサービス株式会社(IMS※)の労働災害発生件数は0件でした。
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- IMS船員除く
海運業の安全
当社グループは安全こそが社業の基盤であるという考えから、海運業においてハード・ソフトの両面にわたり、安全を確保するための対策を実施しています。
主な安全確保策の全体像
安全文化醸成(安全キャンペーン・安全研修)
船舶の安全運航には、海上・陸上の役職員による積極的な安全行動が不可欠であると考えています。
そのため、対話による海上・陸上役職員の連携強化、乗組員のロイヤリティ向上および安全意識の向上を目的とし、安全キャンペーンとして社長以下、マネジメント層による訪船活動を行っています。なお、新型コロナウイルス感染症拡大の間は訪船活動に替えて安全キャンペーン動画の配信と、船陸オンラインミーティングによる乗組員とマネジメント層との対話を通じて現場の意見や課題の吸い上げを積極的に行いました。
また、韓国・フィリピンにおいて年3回、日本・ミャンマーにおいて年2回、インドにおいて年1回、休暇中の乗組員を対象とし、安全意識・安全行動を養うための安全研修を開催することにより、安全文化の更なる発展を目指しています。
近年では部下からの積極的な提言(SPEAK UP)、上司が部下の意見を聞く姿勢(LISTEN UP)や精神面の健康(メンタルヘルス)、若手育成・支援(メンタリング)の浸透にも力を入れています。
船舶の安全運航において必要とされる要件
・海上
- 必要な機器の設置
- 有効な手順書の存在
- 訓練された乗組員の配乗
- 乗組員の心身の健康管理等
・陸上
- 適正な支援体制の確立
- 手順書の適正な改定
- 本船および社内外関係者間の円滑な連絡体制の確立等
実現するために必要な要件
- 手順書の遵守
- 本船の適正な運航とその支援
- 適正な時期の整備による機器の健全性維持
- 早期の連絡を怠らないといった安全意識等
外国籍船員への研修
IMSでは、船舶の所有者である船主から委託された船舶の保守管理を行うとともに、運航のために必要な船員の配乗手配や育成などを行っています。 当社グループの船員の大多数を占める外国籍船員に対しては、当社グループ専属の船員配乗会社である韓国のIMS KOREA CO., LTD.およびフィリピンのIMS PHILIPPINES MARITIME CORP.などが教育研修を行っています。また、IMSから派遣された講師により、毎年、安全マネジメントシステムや危険予知訓練の習熟のための短期安全研修を行っています。必要に応じオンライン研修も有効に活用し、ヒューマンエラー対策や船上でのコミュニケーション強化に関する研修、メンタルヘルスやメンタリングをテーマにしたセミナーも実施し、エラーに強い組織づくりを今後も継続していきます。
技術力向上
高品質なサービスと安全の確保を提供する上で重要なカギを握る人材である海技者は、人命・環境・積荷・船体という4つの安全を確保するため、技術の高度化とダイバーシティへの適切な対応と配慮が求められます。
当社グループでは、海技者を段階的かつ効率的に育成することを目的として、海上職位または陸上役職別に要求される能力や訓練項目を定め、適宜実施しています。機器メーカー主催の技術講習・資格講習・技能向上訓練・社内講習を通し、海技者が変わりゆく時代の要求と技術の進化に適応する知識・技術を習得することにより、船舶のより一層の安全運航を目指しています。
一方、海技者個人の知識・技術向上のみで安全を確保することは難しく、船上ではチームの総合力で安全を確保することが重要になります。
総合力を高める施策の一環としてBridge Resource Management訓練※やEngine-room Resource Management訓練※を定期的に受講し安全運航へと結びつけています。
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- 船舶の安全で効率的な運航を達成するために、船橋(Bridge)および機関室(Engine-room)において、利用可能なあらゆる資源(人・物・情報などのResource)を有効に活用(Management)するべきという考えに基づく訓練。
事故想定訓練
当社グループでは安全運航を実現するため、種々の対応・対策を実施しています。しかしながら、万一事故が発生してしまった際には、適切な初動対応をとることにより、人命、環境や顧客に対する事故の影響を最小限に抑えることが最も重要です。
当社グループでは、有事の際、迅速に適切な初動対応をとることができるよう、さまざまな状況の事故を具体的に想定した机上訓練(テーブルトップドリル)を年2回実施しています。本社の緊急対策本部のメンバーは海難事故初動対応マニュアルに従い訓練を行い、本船と緊急対策本部が事故発生時、確実に機能することを確認しています。また、机上訓練後には反省会を実施し、継続的な改善を行っています。また、緊急対策本部メンバーが物理的に集合できない状況での事故発生を想定し、デジタルツールを最大限活用した緊急対策本部の設営と、オンラインでの各部連携訓練を実施し、さらに第三者コンサルタントを交え、海難事故発生を想定した記者会見訓練を定期的に実施しています。
船舶監視体制の強化
船舶の海賊対策設備を充実させたり、気象情報機関と提携して適切な航路選定を行う一方で、オフィスによる船舶監視体制についても強化をしています。海賊発生海域や衝突・座礁リスクの高い狭水道などを航行する際の動静監視と、航路周辺の安全・保安情報に関して船舶との共有を積極的に行い安全な航行を支援、万一事故が発生した際にも迅速な初動をとれるよう備えています。特に近年は台風・ハリケーン・サイクロンに大型化の傾向や発生期間の長期化がみられ、荒天に関する気象情報の共有は海難事故のリスク低減に大きく寄与しています。
IMSにおける事故発生率低減の取組み
IMSでは、2022年度に実施した安全管理部門の独立や海務・工務の一体化などの新組織体制のもと、さまざまな指標を用いて事故の発生状況を追跡調査し、事故原因の分析や予防対策の強化を通じて、事故発生率の低減に努めています。また、当社グループが所有・管理する外航船舶においては、国際海事機関で採択された国際安全管理コード(IMS Code:International Safety Management Code)に基づき、セーフティマネジメントシステム(SMS:Safety Management System)を構築し運用・維持しています。SMSは英文で文書化され、旗国政府(またはその代行)の審査を経て全船に備えられ、すべての乗組員・船舶管理会社社員は、これに従って業務を行っています。SMSには、本船設備の保守・点検や貨物・燃料油・危険物の取り扱いなどの実務、危険を伴う作業におけるリスク管理方法、災害発生による緊急対応、ニアミスを含む事故等の報告・調査および再発防止等の手順が標準化・明文化されています。また、SMSや各船の管理状況を定期的に見直すことでPDCAサイクルを回し、災害防止と船舶管理品質の向上を図っています。2022年度は、死亡や傷害に至る事故(衝突・座礁・火災)は発生しませんでした。当社グループは、2023年度の目標である事故(衝突・座礁・火災)0件を目指し、今後も安全基盤強化、安全文化確立への取組みを継続していきます。
IMSの労働安全衛生
IMSでは、船上で労働事故が発生した場合、その発生メカニズム、発生原因を丁寧に調査するとともに、現場が対応しやすく効果的な再発防止対策を策定し、船員への周知・教育を行うことで、労働災害発生度数を最小化する取組みを行っています。2022年度のIMS船員の労働災害発生度数率は0.437%でした。2023年度は目標である0.4以下を目指しています。
ポートステートコントロールによる指摘
外国船舶の入港を許可した国は、船内設備や船員の資格などに関するポートステートコントロール(PSC)と呼ばれる立入検査を行います。IMSでは、安全管理を徹底し国際規則を遵守することで、こうした外部検査における指摘事項を減らすよう努めています。
検船実績
オイルメジャーインスペクション
大型原油タンカー、ケミカルタンカー、LPG船およびLNG 船で原油や石油化学製品などの輸送を行う際は、世界の大手石油会社を主体に構成される石油会社国際海事協議会(OCIMF:Oil Companies International Marine Forum)の船舶検査プログラムに基づく検査に合格する必要があります。検船では、船舶の設備、各種マニュアルの整備などの項目に掲げられた安全性が重要視され、安全運航の指標となっています。
CDIインスペクション
ケミカルタンカーおよびLPG船については、石油化学製品業界各社が1994年に設立したChemical Distribution Institute(CDI)による検船も受検します。
飯野検船システム
検船に合格するには安全に対する日頃の取組みが必要です。当社グループでは、セーフティマネジメントシステムで要求される内部監査と、管理船舶を対象とした独自の検船システム(飯野検船)を運用し、安全管理水準の向上を図っています。飯野検船は原則として各船年2回、監督による訪船または便乗で実施しています。2020年度以降はリモートによる検査の活用も行っています。
安全監督臨船
大型原油タンカー、LPG船、ドライバルク船が日本国内で荷役を行う際は、安全監督を派遣しています。安全監督は、船体や荷役機器などの状態を確認して、安全かつ環境に十分配慮した荷役作業を行うよう現場で指導・助言しています。
船員のリピーター率
安全運航を実現するには、優秀な船員を安定的に確保することが重要です。IMSでは、船員の離職理由の分析や改善対策を積極的に進め、高いリピーター率(再雇用率)の維持を目指しています。
顧客満足度調査
船舶を管理するうえでは、事故を未然に防ぐ安全運航の取組みと、船舶の保守整備などの費用の削減を両立させることが重要です。IMSでは、船主に対する顧客満足度調査を年1回実施して指摘事項の改善に取組んでいます。船員教育の充実・強化や、船主へのレポート内容の充実を図るなどを通じて「船舶管理の品質向上」を行うことで、顧客満足度の向上に取組んでいます。
グループ社員への保護服の提供
当社グループ社員の訪船においては、会社より当該社員にヘルメット・ライフジャケット・ゴーグルなどの保護具を貸与し、安全確保を図っています。
不動産の安全
当社グループは東京都心に保有しているオフィスビル6棟について、海運業で培った「予防保全」の考え方をビル管理に活かすことで事故、不具合を未然に防いでいます。テナント・来館者の皆様が快適に安心して利用できる空間をご提供できるよう安全の確保に努めています。
BCPの策定
当社グループは、大規模災害、事故、事件などの危機発生時において事業の継続と迅速な復旧を図るために、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を策定しています。災害発生時にはビル機能の迅速な復旧が不可欠であり、危機発生前からの周到な準備が極めて重要であると考え、大規模地震を想定した不動産BCP訓練を毎年実施しています。
防火・防災管理体制の整備
主要賃貸ビルには複数の事業所が入居しています。火災・地震などの災害発生に備え防火・防災に関する協議会を組織し、消防総合訓練を年2回行っています。また、防火対象物点検・防災管理点検を実施し建物の安全確保に努めています。基幹ビルである飯野ビルディングは東京消防庁による優良防火対象物認定表示制度に基づく「優良防火対象物認定証」(通称:優マーク)※を取得しており、より安全なビルとして管理・運営されています。
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- 「継続的に消防法令を遵守している」「法令基準以上の防火への取り組みを行っている」等、防火安全性の高い優良な防火対象物を東京消防庁が認定する制度のことです。消防署による書類整備等の形式検査と立ち入り検査の結果、飯野ビルディングは2018年に続き2021年にも優良防火対象物としての認定を受け、「優マーク」を表示できることになりました。
全テナントとの災害対策訓練
飯野ビルディングと汐留芝離宮ビルディングでは、全テナント参加の避難訓練を年2回行っています。2022年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止となりましたが、消防署との協議により訓練資料を全テナントへ配布することで訓練実施と同等の扱いになりました。一方、両ビルの防災センターでは有事に備えて年2回の防火・防災訓練を継続して実施しました。
さらに飯野ビルディングでは、不動産部門としてのBCP対応訓練(初動机上訓練)を年2回行っています。災害発生後には直ちに「緊急対策室」を設置し、管理建物内および外部からの情報収集と対応指示、対策の意思決定を行い、総合的な情報集約本部として機能する体制を整備しています。
2022年度は、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型のBCP訓練を実施しました。1回目は、豪雨による浸水でビル設備に重大な損害が発生したとの想定のもと、ビル・テナントへの被害・影響を最小限に抑えるため対応訓練を行いました。2回目は、大地震発生を想定し、帰宅困難者の受入れ決定から、受入れ場所の安全確認・準備等を経て受入れ完了までの対応を確認する訓練を実施しました。
データ集(不動産業:2022年度の各ビル訓練実施内容/回数)
館内警備システム
所有ビルの安全かつ快適な利用を目指した施設警備をグループ会社のイイノ・ビルテック(株)(IBT)とともに行っています。ビル警備の形態は24時間警備員を常駐させる「常駐警備」と遠隔監視により異常を感知し警備員が出動する「機械警備」の2種類を導入しています。また、侵入センサー等の各種機器の設置、最新の防犯カメラ、警備ロボット(飯野ビルディング)などを導入し24時間体制でビルの安全を見守っています。
事故・トラブル発生状況の把握
IBTでは、所有するビルの安全かつ快適な利用の実現を目指し、事故・トラブルに関するデータの継続的な収集・分析などを行う事故検討会を毎月開催して改善に努めています。また、事故・トラブルの未然防止策として、当社保有のオフィスビルにおいて設備や装置の安全性を維持するために、検査・点検を定期的に実施しています。
IBTの労働安全衛生
IBTでは、安全衛生委員会を設置し、毎月定例会を開催しています。また、協力会社と連携した安全衛生協議会を年1回開催することで、労働災害防止に努めています。従業員に対しては健康診断を年2回実施しています。協力会社に対しては、安全衛生に関する研修を実施しています。
安全に対する従業員教育
IBTでは、ISO教育訓練計画書に基づき、ビル設備管理に従事する職員の安全意識向上を目的とした研修会OFF-JT(上級救命講習、安全管理者講習他)を定期的に実施、社内においてはOJT(KY訓練、防火・防災設備取扱い訓練、非常無線通話訓練他)を毎月実施しており、定期的にリスクアセスメントを行うことで、安全な職場環境作りに努めています。
不動産関連の資格/講習
IBTの社員は、全員が「上級救命講習」を受講し、上級救命技能認定を取得しています。そのほかにも各種の資格取得、 講習への参加により、安全に関する知識の習得と訓練を行っており、今後も継続して実施していきます。
保護服の提供
従業員の安全を確保するため、防護ヘルメットなどの保護具を貸与しています。安心して働ける環境を整備するための取組みを実施していきます。