自然関連課題への対応

自然関連課題への対応

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラムへの参画およびTNFD Adopterへの登録

当社は、2025年3月に「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:以下、TNFD)フォーラム」に参画し、「TNFD Adopter」に登録しました。

「TNFDフォーラム」は、自然に関する企業のリスク管理と開示の枠組みを構築するために2021年6月に設立された国際組織であるTNFDでの議論をサポートし、枠組み構築の支援を行うために参画した企業、金融機関、研究機関などから構成されるステークホルダー組織です。当社は「TNFDフォーラム」への参画に加え、TNFDの提言に沿った情報開示を2025年度までに行う意思を表明した企業・団体である「TNFD Adopter」にも登録しました。これにより当社は2025年度中にTNFD提言の4本の柱(ガバナンス・戦略・リスクとインパクトの管理・測定指標とターゲット)に沿った開示を行うべく、引き続き検討を進めてまいります。

当社グループは経営方針において「社会を構成する責任ある一員として、社会と向き合い各種社会課題の解決に貢献する」ことを掲げ、生物多様性・環境保全への取組みによる社会課題の解決に努めています。当社グループの活動が自然環境や生物多様性へ与える影響について、積極的な情報開示を行うとともに、企業の成長と生物多様性の保護を両立し、持続可能な社会の実現に向け貢献してまいります。

TNFDフォーラム:URL

TNFD Adopter:URL

一般要件

TNFD開示においては、開示情報に一貫性を持たせるため、提言の4つの柱である「ガバナンス」、「戦略」、「リスクとインパクトの管理」、「測定指標とターゲット」すべてに適用される、6項目からなる一般要件を適用することが求められています。当社グループはTNFD開示にあたり、以下の通り一般要件を適用しました。

1. マテリアリティの適用

当社グループは、ステークホルダーにとっての重要性や、社会および当社グループの事業への影響度、重要度の観点から、9つの社会的課題を取り組むべき目標(マテリアリティ)として特定しています。「環境」に関しては、生態系の保全や汚染防止への対応として「生物多様性への取組み」を課題の一つとして掲げています。自然関連課題(自然関連の依存・インパクト、リスク・機会)の特定においても同様に、当社グループの自然への依存・インパクトを把握したうえで、当社グループやステークホルダー、環境・社会にとってのリスク・機会の大きさといったダブルマテリアリティの観点から重要課題を特定しています。

当社マテリアリティは、サステナビリティ重要課題の特定をご覧ください

2. 開示のスコープ

本開示においては、海運業と不動産業およびその上下流のバリューチェーンを対象としています。開示で対応している提言の範囲は、自然関連課題*に関するガバナンス体制、対象バリューチェーンでの自然への依存・インパクトの概観、現時点で考えられる主要な自然関連リスク・機会です。

2025年度においては、ロケーション分析も含めたTNFD提言の4本柱全体の開示へと拡充を予定しています。

※自然関連課題:自然関連の依存・インパクトやリスク・機会のこと

3. 自然関連課題がある地域

2025年度においては、自然関連課題がある地域の特定のため、本社/グループ会社の運航船が通過する海域、および所有する不動産所在地におけるロケーション分析の実施・開示を予定しています。

4. 他のサステナビリティ関連の開示との統合

本開示においては自然関連課題単独での開示を行いますが、2025年度の開示においては気候変動関連課題との統合的な開示をすることも検討しています。

5. 検討される対象期間

当社グループはリスク・機会の特定において、対象期間を以下のように設定して検討を行っています。

  • 短期:0~2年
  • 中期:3~10年
  • 長期:11年~

6. 自然関連課題の特定、評価における先住民、地域コミュニティ、影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント

自然関連課題を特定・評価・管理するためには、自然のみならず、先住民、地域コミュニティ、影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメントも重要な要素とされています。当社グループは事業活動にあたり、後述する「ガバナンス」内の人権方針および人権マネジメントプロセスに記載の通り、国際規範等に基づいて「飯野海運グループ人権方針」を策定し、関係するすべてのステークホルダーの人権を尊重します。

ガバナンス

TNFD開示提言の「ガバナンス」では、自然関連課題を監督する上で組織の取締役会が果たす役割や、それらの課題を評価・管理する上で経営陣が果たす役割、自然関連課題に対する評価と対応における先住民族や地域社会を含むステークホルダーとのエンゲージメントやその監督について説明することを求められています。当社グループの自然関連課題に関するガバナンス体制は以下の通りです。

取締役会・経営陣の役割

当社グループでは環境問題への取組みを経営上の重要課題と位置づけ、グループ全体で取組みの検討および進捗の管理を行っています。環境問題を議論する組織として、代表取締役社長を委員長とし、すべての業務執行取締役ならびに主要なグループ会社社長を含むメンバーを委員とする安全環境委員会を設置しています。安全環境委員会は全社的なリスク管理活動を統括するリスク管理委員会の下、当社及び当社グループ各社に共通する安全及び環境に関係する政策立案とその推進を担当する委員会として位置づけられており、毎月1回定期的に開催しています。また、安全環境委員会は当社グループのサービス・活動の環境側面(生物多様性に関する側面を含む)の評価を行っており、重要と判断されたサステナビリティ関連課題に対してはリスク管理委員会、経営執行協議会、そして取締役会で監視・監督する体制としています。また、代表取締役社長は当社グループにおける自然関連課題の責任者の役割も担っています。

なお、当社グループは環境や人権への対応、ガバナンスの強化等をマテリアリティとして特定しており、また中期経営計画においても社会的価値の創造を重点戦略に掲げています。当社グループは役員全員でESG経営を積極的に推進し、サステナビリティに重点を置いた経営をより一層強化していきます。

※ガバナンス体制図は、ガバナンスの強化をご覧ください。

人権方針およびエンゲージメント

自然関連課題は先住民族や地域コミュニティと密接に関わっているため、TNFDではそれらを含むステークホルダーに関する人権方針、デュー・デリジェンス、苦情処理メカニズム、エンゲージメント等の開示を求めています。

当社グループは、グローバル企業としてすべての人々の人権を尊重することが企業として果たすべき社会的責任であることを認識し、2022年9月に国連グローバル・コンパクトへの賛同を表明する署名を行いました。また当社の企業理念に基づいた人権に関する最上位の方針として、2022年10月27日に取締役会において決議の上、「飯野海運グループ人権方針」を策定しました。当社グループは、事業活動に関わるすべてのステークホルダーの人権を尊重し、あらゆる事業活動によって引き起こされる可能性のある直接的または間接的な人権への負の影響に対処することにより、人権尊重の責任を果たします。

飯野海運グループの人権方針

当社グループは事業活動における人権への顕在的または潜在的な負の影響に関する対応について、関連するステークホルダーとの対話と協議を行い、人権尊重の取組みを継続的に改善・強化していきます。

戦略

TNFD開示提言の「戦略」では、特定した重要な自然関連課題 の説明や自然関連リスクへの対応策、そして評価の結果から得られた優先地域の開示が求められています。
当社グループにおいては、優先地域を含む開示項目の開示に向けて検討を進めている段階であり、バリューチェーンを含めた当社グループの自然に対する依存・インパクト、および現時点で想定されるリスク・機会などとあわせて、2025年度中の開示を予定しています。

自然関連の依存・インパクト

当社グループは、事業活動が自然やその恵み(生態系サービス)に依存しており、また事業活動が自然にインパクトを与えている可能性があることを認識しています。当社グループのバリューチェーン上ではどのような生態系サービスにどの程度依存し、あるいはどのようなインパクトをどの程度与えているかを把握することは、自然と共生する社会の実現に向けて重要と考えています。

本開示では、海運業と不動産業およびその上下流のバリューチェーンを対象に自然への依存・インパクトを整理し、その重要度(マテリアリティ)をVery High~Very Lowの5段階で評価しました。依存・インパクトの評価には、UNEP-FI(国連環境計画)等が運営する依存・インパクトの評価ツール「ENCORE」を用いました。依存・インパクトの評価手順は下記の通りです。

  1. 海運業と不動産業について、直接操業と上下流のバリューチェーンで関連するセクターを特定
  2. ENCOREを用いて特定したセクターにおける自然に対する依存・インパクトの重要度を評価
  3. 直接操業については、当社グループにおける実態を鑑みて重要度を調整

以下では、上記1~3のプロセスで評価した当社グループの重要な自然への依存・インパクトをご説明します。

※各ヒートマップ内で使用されている略語について

  • VC:バリューチェーン(Value Chain)
  • VL:非常に低い(Very Low)
  • L:低い(Low)
  • M:中程度(Medium)
  • H:高い(High)
  • VH:非常に高い(Very High)
【海運業における主な依存】

海運業において重要だと考えられる生態系サービスは以下の通りです。直接操業においては、船舶の運航・停泊時における水災害の緩和機能、運河航行時に十分な水量を供給するための水流調整機能、船体を汚染から保護する海洋の水質浄化機能に特に依存していることが分かりました。

バリューチェーン上流:燃料調達、船舶の原材料調達、造船、衛星通信など

  • 燃料調達:水質浄化、気候調整、洪水緩和
  • 船舶の原材料生産:水資源の供給、水質浄化、水流調整、気候調整、洪水緩和、降雨パターンの調整

直接操業:船舶の運航、荷役、船舶の保守・メンテナンス

  • 船舶の運航:水質浄化、水流調整、気候調整、洪水緩和、暴風雨の緩和、降雨パターンの調整
  • 保守・メンテナンス:洪水緩和

バリューチェーン下流:港湾サービス、港湾ロジスティクス、船舶の解撤

  • 港湾サービス:洪水緩和
  • 船舶の解撤:固形廃棄物の修復、降雨パターンの調整
当社グループの海運業における自然への主な依存(ヒートマップ)
【海運業における主なインパクト】

海運業において重要だと考えられるインパクトは以下の通りです。直接操業においては、船舶の運航による海洋域の利用やGHG排出、大気汚染物質や廃棄物の排出、漏油や貨物漏洩が発生した場合の汚染、水中騒音や大型海洋生物との衝突による生態系のかく乱、バラスト水や船体付着による侵略的外来種の導入といったインパクトの重要度が特に高いと分かりました。

バリューチェーン上流:燃料調達、船舶の原材料調達、造船、衛星通信など

  • 燃料調達:淡水域の利用、海洋域の利用、GHG排出、大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱
  • 船舶の原材料調達:淡水域の利用、海洋域の利用、GHG排出、非生物資源(鉱石など)の利用、固形廃棄物の排出、大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱
  • 造船:大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱

直接操業:船舶の運航、荷役、船舶の保守・メンテナンス

  • 船舶の運航:海洋域の利用、GHG排出、固形廃棄物の排出、大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱、外来種の導入
  • 荷役:GHG排出、外来種の導入
  • 保守・メンテナンス:水の使用、大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱

バリューチェーン下流:港湾サービス、港湾ロジスティクス、船舶の解撤

  • 船舶の解撤:土壌・水質汚染、かく乱
当社グループの海運業における自然への主なインパクト(ヒートマップ)
【不動産業における主な依存】

不動産業において重要だと考えられる生態系サービスは以下の通りです。不動産業における依存の大半はバリューチェーン上流(特に建築材料の生産)に集中しています。木材を生産する林業セクターにおいては、バイオマスそのものや、育成に必要な水・土質の調整機能、地すべりや気象災害の緩和機能へ特に依存していることが分かりました。また、金属の採掘や石・砂・粘土の採取においては、水質浄化機能、水災害の緩和や水の供給のための降雨パターンの調整機能に特に依存していることが分かりました。

バリューチェーン上流:建築材料の生産、建設、電力・水道・ガスの供給など

  • 建築材料の生産:水資源の供給、バイオマスの供給、遺伝物質、水質浄化、水流調整、気候調整、洪水緩和、降雨パターンの調整、土壌・堆積物の保持、土質調整、生息地の個体数と生息環境の維持、生物学的防御
  • 建設:降雨パターンの調整、土壌・堆積物の保持
  • 電力・水道・ガスの供給では、水資源の供給、固形廃棄物の修復、水質浄化、水流調整、気候調整、洪水緩和、降雨パターンの調整、土壌・堆積物の保持

直接操業:ビルの運営・管理

  • ビルの運営・管理:土壌・堆積物の保持、文化的サービス

バリューチェーン下流:ビルの解体

  • ビルの解体:固形廃棄物の修復、降雨パターンの調整、土壌・堆積物の保持
当社グループの不動産業における自然への主な依存(ヒートマップ)
【不動産業における主なインパクト】

不動産業において重要だと考えられるインパクトは以下の通りです。依存と同様、不動産業におけるインパクトの大半はバリューチェーン上流(特に建築材料の生産)に集中しています。なかでも、林業における土地の利用や肥料・農薬使用による汚染、金属の採掘における廃棄物の排出、石・砂・粘土そのものの採取による資源利用、建築材料の製造における有害汚染物質の排出や製造工程で発生する騒音・光害による生態系のかく乱といったインパクトの重要度が特に高いと分かりました。直接操業においては不動産による土地利用、トイレや冷暖房における水使用といったインパクトが重要と考えています。

バリューチェーン上流:建築材料の生産、建設、電力・水道・ガスの供給など

  • 建築材料の生産:土地利用、淡水域の利用、海洋域の利用、GHG排出、水の使用、非生物資源(鉱石など)の利用、固形廃棄物の排出、GHGを除く大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱(騒音・振動・光害など)、外来種の導入
  • 建設:GHG排出、土壌・水質汚染、かく乱(騒音・振動・光害など)
  • 電力・水道・ガスの供給:土地利用、淡水域の利用、海洋域の利用、GHG排出、GHGを除く大気汚染物質の排出、土壌・水質汚染、かく乱(騒音・振動・光害など)

直接操業:ビルの運営・管理

  • ビルの運営・管理:土地利用、水の使用

バリューチェーン下流:ビルの解体

  • ビルの解体:土壌・水質汚染、かく乱(騒音・振動・光害など)
当社グループの不動産業における自然への主なインパクト(ヒートマップ)

自然関連のリスク・機会

依存・インパクトの評価結果を踏まえ、海運業と不動産業において現時点で考えられる自然関連のリスク・機会を棚卸し、整理しました。リスク・機会の棚卸しでは依存・インパクトのヒートマップに加え、国際的な政策動向などの外部要因も加味しています。
現時点で当社が重要と捉えている自然関連リスク・機会は下表の通りです。

【海運業におけるリスク・機会】

現時点で重要と捉えている海運業におけるリスクとしては、「異常気象の頻発・激甚化」、「降雨パターンの変化による運河の水不足」、「海洋保護区の拡大や、当該地域での航行ルールの厳格化」、「運航時の事故」などが挙げられます。
一方で「環境負荷の小さい船舶の開発や採用」、「減速航行の実施」などはサステナビリティに貢献する機会になりうると考えられます。

海運業におけるリスク・機会の一覧

※機会の欄における「ビジネス」はビジネスパフォーマンス、「サステナ」はサステナビリティパフォーマンスを指す

【不動産業におけるリスク・機会】

現時点で重要と捉えている不動産業におけるリスクとしては、「気候変動に伴う暴風雨・洪水の発生頻度の増加、甚大化」「地表水/地下水など水資源の取水に関する規制・条例等の強化」「不適切な管理による水質汚染・土壌汚染」などが挙げられます。
一方で「水や木材・建設廃材、プラスチックなど建設資材の高効率な利用による環境負荷低減」、「低インパクト、低毒性、資源循環材を利用した不動産のプランニング・運営」は機会になりうると考えられます。

不動産業におけるリスク・機会の一覧

※機会の欄における「ビジネス」はビジネスパフォーマンスを指す

今後の取組みについて

当社グループは2025年3月にTNFD Adopterに登録しました。今後はTNFDの4本の柱(ガバナンス・戦略・リスクとインパクトの管理・測定指標とターゲット)に沿った開示を行うべく、詳細な分析を進めてまいります。4本の柱に沿った開示は2025年度中の公開を予定しています。

自然関連課題は地域特性があるため、事業が自然や生態系と接点を持ち、そこでどのような活動を行っているかを評価することが重要です。2025年度は当社グループの主要事業である「海運業」と「不動産業」を対象に、自然との接点や生態学的に要注意な海域・地域での操業がどの程度あるのかを評価してまいります。また、地域特性を踏まえた自然関連リスク・機会の精緻化やTNFDにおける開示指標(グローバル中核開示指標)の整理など、開示に向けた準備を進めてまいります。
なお、現時点で開示可能な指標は下記の通りです。サステナビリティサイトのデータ集もあわせてご参照ください。