環境

気候変動への対応

方針・戦略

日本政府、国際機関、業界団体との気候変動に関する協調

日本政府は、2020年10月の臨時国会において2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す宣言を行っています。

当社は、脱炭素社会の実現に向けた日本政府の政策を支持しています。あわせて国連の専門機関である国際海事機関(IMO)が定める温室効果ガス(GHG)排出量削減目標と各種規制である燃費実績の格付け制度(CII:Carbon Intensity Indicator)※1およびエネルギー効率関連条約(EEXI: Energy Efficiency Existing Ship Index※2等)を遵守・支持し、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、SBT認定取得の検討を含め、当社グループとして適切に対応を行っていきます。また、わが国の気候変動に関連する法規制(省エネ法:エネルギーの使用の合理化等に関する法律/温対法:地球温暖化対策の推進に関する法律等)を遵守・支持し、年1回、政府機関へエネルギー使用量とGHG排出量の報告書を提出しています。

また、2021年10月には日本船主協会が「2050年GHGネットゼロへ挑戦する」ことを表明するなど、海運業の業界団体として気候変動対策に関わる戦略の策定を主導しています。当社は海運業の業界団体である日本船主協会に加盟し、当社の代表取締役社長が理事会の理事を務め、重要な意思決定に関与しています。日本船主協会は、環境保全に関する行動指針の一つに「環境対策に関わる内外関係機関等との連携の強化および内外フォーラム・会議への積極的な参加と貢献」を定めています。当社グループは、日本船主協会の気候変動の対応方針を支持しており、当社グループの気候変動戦略である「2050年GHGネットゼロ達成のためSBT認定を将来的に取得することの検討」は日本船主協会のGHGネットゼロの方針と一致していることを確認しています。

※1
外航船舶の年間の燃費実績を確認し、その結果に応じて格付けを行うことで国際海運全体の燃費改善を促進する枠組み。(格付けはAが最高、Eが最低格付け)(2023年発効)
※2
造船に対するEEDIによる規制と同様に、就航船に対する規制として輸送量当たりCO2排出量を一定値以下にすることを義務付けた指標。(2023年から適用)
気候変動に関するリスクおよび投資と機会

財務的または戦略的な面から事業に重大な影響を及ぼす可能性がある気候変動に関する海運業と不動産業のリスクおよび投資と機会について紹介します。

海運業における物理的リスク

物理的リスクと対応策および機会

リスク 時間軸 対応策および機会
台風などの異常気象の発生 短期※1
  • 気象・海象データを衛星通信で収集
  • 気象情報サービス会社により提供される(気象・海象予測に基づく)最適な航路選定の支援サービスを利用
中長期※2
  • 気候変動対策としてGHG排出量を削減可能なニ元燃料主機関搭載船への投資を推進
※1
短期とは2年程度の比較的短い期間のこと。
※2
中長期とは2年以上の期間のこと。

リスクに対応するためのコスト(ITシステムの使用)

船舶の運航管理システムや海陸(船舶と陸上)間と船同士のコミュニケーションに使用する通信機器などの利用により、年間約15百万円の費用が発生しました。

財務上の潜在的影響額

航路上に台風が発生した場合、船舶は台風を避けるために航路から離れて航行(離路)する必要があります。離路に伴い年間約1,041百万円の追加費用が発生する可能性があります。

不動産業における物理的リスク

物理的リスクと対応策および機会

リスク 時間軸 対応策および機会
洪水などの水害の発生 短期※1
  • 自然災害発生時の迅速な対応を可能とするBCPの策定
  • ハザードマップで浸水の可能性があるオフィスビルは、電気制御室などの重要機器を配置するスペースを上層階に設置
  • 比較的海抜の低い場所に位置しており、雨水の浸入による被害が予想されるビルにおいて、防潮設備を設置
  • すべての国内所有オフィスビルにおいて災害に備えるための保険に加入
中長期※2
  • 対応策を通じた不動産価値の上昇
※1
短期とは2年程度の比較的短い期間のこと。
※2
中長期とは2年以上の期間のこと。

リスクに対応するためのコスト

すべての国内所有オフィスビルにおいて災害に備えるために保険の加入が必要となり、一部のオフィスビルでは約10百万円の費用が発生します。

また、当社所有の一部のオフィスビルは、比較的海抜の低い場所に位置しており、雨水の浸入の可能性があります。このリスクに対処するため、1階防潮板、地下防水板を設置し、約45百万円の費用が発生します。

財務上の潜在的影響額

当社所有の一部オフィスビルのリスク調査をリスクコンサルティング会社が行った結果、水害リスクとして約3,700百万円の損害が発生する可能性があることが判明しています。この損害額については、加入している上記保険によりカバーされる予定です。

中期経営計画の目標とシナリオ分析に沿った温暖化対策の戦略とビジネス戦略

当社グループでは中長期的な視点から2030年と2050年までの期間を目標時期として設定し、中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」(計画期間:2023年4月~2026年3月)において2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としています。以前より、海運業と不動産業それぞれのGHG排出量の削減目標を設定していますが、2030年までの中間削減目標を改めて見直し、海運業、不動産業ともに削減率を引き上げました。

この目標達成のために当社グループの主軸である海運業と不動産業においてそれぞれTCFD提言に基づきシナリオ分析を実施しました。海運業・不動産業ともに、気候変動がさまざまなリスクと機会をもたらし、中長期的な事業の戦略にも影響を及ぼすと改めて認識しました。

気候変動による事業への影響を想定し、リスクマネジメントを強化するとともに、温暖化対策と事業戦略を一体化して、1.5℃シナリオの世界観実現に向けて取組んでいきます。

シナリオ分析の詳細はTCFD提言への賛同をご覧ください。

脱炭素社会の実現に向けた計画策定と実行

海運のカーボンニュートラル達成に向けたロードマップについて

基本方針
(1) 自主運航船(SCOPE 1):主に「中小型」ケミカルタンカー・ドライバルク船・内航ガス船
排出削減の投資効果は大型船に劣るものの、各船種に最適な次世代燃料船への投資を段階的に推進します。さらに、重油炊きエンジンで使用可能なバイオ燃料の導入による足元からの着実な対応と、中小型の次世代燃料船の設計・開発への関与を通じて中長期のCO2削減に取組みます。
(2) 定期貸船(SCOPE 3):主に「大型」油槽船・外航ガス船
積載貨物を燃料とするガス船を中心に次世代燃料船への投資を先行して実行します。
将来のゼロエミッション燃料(水素・アンモニア)船への管理に向け、運用と管理ノウハウの蓄積と技術を高めます。また、他船種・船型にも水平展開しグループ船隊全体の脱炭素を促進します。

中期経営計画における数値目標

当社グループでは、中期経営計画の財務的な数値目標として、2030年度に売上高1,900億円、経常利益200億円を掲げ、「IINO VISION for 2030」において「時代の要請に応え、自由な発想で進化し続ける独立系グローバル企業グループ」を目指しています。「IINO VISION for 2030」の達成のためには、財務的な数値目標達成に向けた経済的価値創造だけではなく、社会的価値の創造も必要であり、中期経営計画では、海運業と不動産業の双方で、従来のGHG排出量削減の数値目標を見直し、削減率を引き上げています。なお今後、日本政府やIMO、その他国際機関による削減目標の変更があった場合には、当社の目標も見直します。

事業別の目標として、海運業においては、2020年度比でトンマイル(輸送単位)当たりのGHG排出量を2030年度までに20%削減を目標としています。また不動産業においては、日本政府目標を勘案し、2013年度比でCO2排出量を2030年度までに総量で75%削減することとしています。なお、2030年目標を達成するための短期削減目標として海運業では3年間でトンマイル当たり約4%削減、不動産業では3年間で総量約22%削減の短期目標を掲げています。

さらに、当社グループでは2050年までにカーボンニュートラルの達成の実現に向けたロードマップを策定しました。この目標を達成するために、引き続き環境負荷低減に資する資産への投資推進、次世代燃料船の取組み強化、サステナブルな貨物への取組みを強化していきます。

当社削減目標

  従来目標 新目標 2022年度の進捗
海運業 2030年度:2008年度比40%削減(稼働延べトン単位当たり)
2050年:2008年度比50%以上削減(稼働延べトン単位当たり)
今世紀中なるべく早期の排出ゼロ
2030年度:2020年度比20%削減(トンマイル当たり)
2050年:カーボンニュートラル
13.5%削減
不動産業 2030年度:2013年度比50%削減
(単位面積当たり)
2030年度:2013年度比75%削減(総量)
2050年:カーボンニュートラル
21.8%削減

データ集(GHG/CO2排出量の削減率)PDF

目標達成に向けた戦略・取組み方針

パリ協定に整合する1.5°Cシナリオの世界観実現と中期経営計画でのGHG削減目標の達成に向けて、当社グループは気候変動による事業への影響を想定し、リスクマネジメントを強化するとともに、各種取組みと事業戦略を一体化していくための経営戦略を進め、中期経営計画の重点戦略の一つである「脱炭素社会の実現に向けた計画策定と実行」に沿ったさまざまな取組みを行っています。

その具体的な取組みとして、海運業では、大型で燃費効率の良いエンジンを採用した船舶への投資を推進することで、CO2排出量を低減するとともに経済効率性の向上に努めています。次世代燃料船の取組み強化としては、LNG・LPG・LEG(液化エタン)・メタノールも燃料として使用できる二元燃料主機関搭載船への投資やその検討を本格的に行い、その運航・管理ノウハウの蓄積に取組んでいます。加えて、ゼロエミッション燃料(アンモニア・水素)への転換に向けた対応を進め、アンモニア燃料主機関を見据えた投資も行っています。さらには、サステナブルな貨物への取組みを強化するためにLNGやアンモニアなどのクリーンな貨物輸送を行い、運航効率改善に向けてAIを積極的に活用し、更なるCO2排出量削減に努めています。また、将来に向けたインターナルカーボンプライシングの導入の検討や、船上CO2回収・貯留の導入の検討も行っていきます。

不動産業では、所有ビルにおけるエネルギーミックスのほか、非化石証書付電力の購入など再生可能エネルギーへの転換や設備導入(LED照明、空調設備、太陽光パネル等)を推進していきます。さらに、CO2排出量削減が期待される次世代オフィスビル(ZEBや木造建築)の開発に参画し、知見の獲得に努めています。これらの取組みを統括するため、2022年6月にIINO環境タスクフォースを継承する「環境推進ワーキングチーム」をサステナビリティ推進部内に設置し、環境対策推進課と共同で気候変動に関する国際的な法規制や他社動向などの情報を収集し、気候変動対応に落とし込みを行っています。

取組み

当社グループのGHG/CO₂の中長期削減目標と短期削減目標の進捗

2022年度時点での海運業のGHG削減量は13.5%(2020年度比)、不動産業のCO2削減量は21.8%(2013年度比)となりました。2030年度の目標と1.5℃シナリオの実現に向けて、中期経営計画に沿った取組みならびにシナリオ分析を踏まえた戦略を推進していきます。

データ集(GHG/CO2排出量の削減率)PDF

気候変動への適応

地球温暖化による気候変動が今後生じるものと想定した取組みとして、気候変動から受ける影響を軽減する「適応」を含む対策を海運業と不動産業において推進しています。

海運業では、近年、気候変動の影響で世界的に大型化・頻発化が著しい台風の影響により、船舶の安全な航行や貨物の輸送が脅かされています。当社グループでは、すべての運航船舶の安全運航に細心の注意を払うことはもちろん、気象・海象データを衛星通信で収集するとともに、最適な航路選定を支援する気象情報提供会社のサービス等を利用することにより、陸上から船舶への適切な情報のフィードバックや海陸間の緊密な連携を図り、安全運航に努めています。

不動産業では、気温上昇における熱中症対策のために、飯野ビルディングの敷地内にある「イイノの森」で毎年夏にミストの散布や日傘となる高木を配置しています。また、火災・地震などの大規模災害に対処するために、所有オフィスビルにおけるBCP訓練を実施しています。

データ集(エネルギー消費量)PDF

海運業における気候変動への取組み

船舶の運航にはCO2などGHGの排出を伴います。当社グループでは、二元燃料主機関搭載船の推進など、船種や船舶ごとにさまざまな検討・対応を進めています。また、船舶エネルギー効率の適切な管理のための規制発効に伴う管理手順書(SEEMP:Ship Energy Efficiency Management Plan)※1により、一航海当たりの燃料消費データについて半年毎のモニタリング・解析を継続するとともに、欧州で発効したEU MRV規制、IMOで定められた燃料油消費実績報告制度(DCS:Data Collection System)※2規制など、燃料消費実績の報告制度にも対応しています。

※1
外航船舶からのGHGの排出を削減する取組みの一環として、対象となる船舶の所有者が作成し、船舶に備え付けることが義務付けられている計画書のこと。
※2
外航船舶からのGHGの排出を削減する取組みの一環として、対象となる船舶の所有者が1年毎の燃料油の消費実績を収集し、国土交通省または船級協会に報告する制度のこと。

データ集(海運業におけるCO2排出量の推移)PDF

効率的な運航による燃費改善、推進性能向上を図る新技術の採用

効率的な運航によって燃料消費量を削減することにより、CO2の排出を抑制することができます。SEEMPの所持、新造船へのエネルギー効率設計指標(EEDI)の適用、DCSの運用を行っています。また、新たに単位輸送量当たりのCO2排出量を制限するエネルギー効率指標(EEXI)とCII燃費実績格付け制度の運用を開始しました。当社グループではこれらの規制を遵守する適切な手順の運用とともに燃費改善の取組みを継続し、具体的な取組み例としてCO2排出抑制に関する船上教育の深度化、省電力型LED照明の積極採用を実施しています。

また、船舶の推進性能を向上させることによっても燃料消費量は削減され、CO2の排出を抑制することができます。新造船においてはプロペラの推進効率を向上させる船尾付加物装着および、最新の低摩擦船底塗料の採用を積極的に進めています。既存船においても船体抵抗の軽減を実現する低摩擦船底塗料の採用や、運航中の適切な時期にプロペラや船底の洗浄を実施し、推進性能の維持を図っています。さらに、新造船においては航海情報や機関運転状態を常時陸上でモニターできるシステムを搭載し、運航状況を正確に把握しながら陸上から適切な支援を行うことのできる体制を構築しています。

燃費効率の高い船舶の建造を目的に、新造船に対し設計時の輸送量当たりCO2排出量を一定値以下にすることを義務付けた指標(2013年発効)。規制値は5年毎に段階的に強化される。
不動産業における気候変動への取組み

当社では、主要賃貸ビルにおいて使用エネルギー量を計測し、テナント各社様と協力して省エネルギー対策に努めています。また、東京都により「特定地球温暖化対策事業所」※1の指定を受けている飯野ビルディングおよび汐留芝離宮ビルディングにおいては、地球温暖化対策計画書を毎年作成して、CO2をはじめとするGHGの排出量削減への取組みを報告しています。飯野ビルディングは、省エネ効果の優れた設備を導入し、高い環境性能と快適な執務空間を同時に実現しています。テナント各社様にもご協力いただき、ビル一体となった管理体制のもとでGHG排出量の削減に向けた効率的な設備運用に努めています。このような取組みから、「東京都環境確保条例」における2015年度ならびに2020年度に「優良特定地球温暖化対策事業所」(トップレベル事業所)※2に認定されました。

※1
東京都は「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」に基づき、GHGの排出量の多い大規模事業所を対象として、「地球温暖化対策計画書」の作成を要請しています。本計画書の提出とGHGの排出総量の削減義務を規定することにより、事業活動による二酸化炭素等の排出抑制に取組んでいます。
※2
トップレベル事業所とは、東京都が条例に基づき推進する地球温暖化対策において、二酸化炭素排出量削減に向けた管理体制、建物設備性能およびその運用の推進の程度が極めて優れた事業所として認定されるものです。本認定により二酸化炭素排出量の削減義務率が1/2に緩和されます。

データ集(不動産業におけるCO2排出量の推移)PDF

保有オフィスビルにおける環境認証の取得推進

飯野ビルディングは、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)評価で最高ランクの5つ星を取得し、LEED認証(プラチナ)を取得しています(当社オフィスフロア27階)。また、環境・社会に配慮したビルに与えられるDBJ Green Building 認証を飯野ビルディング(5つ星)と汐留芝離宮ビルディング(4つ星)において取得しています。

データ集(所有オフィスビルにおける各認証の取得割合)PDF

エネルギー消費量の削減

当社グループでは、所有するビルへの最先端の技術や設備機器の採用、エネルギー消費量の「見える化」システムの導入などを通じて、ビル全体の省エネルギー化を進めています。また、テナント各社様とも協力しながらエネルギー消費量の削減に努めています。

データ集(各ビルの電力消費量とCO2排出量)PDF

エネルギー消費量削減への取組み

  1. ビルエネルギーマネジメントシステムの導入
    飯野ビルディングでは、BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)を導入し、機器・設備等の効率的な運転管理を行うとともに、エネルギー利用の見える化を推進してエネルギー使用量の削減に努めています。また、顧客のニーズに応えるため、東京都に提出する地球温暖化対策に関する各報告書や、省エネ法に関する各報告書の作成を行うほか、空調エネルギーデータの提供も行っています。

  2. グリーンリース契約
    汐留芝離宮ビルディングでは、テナント各社様と専有部のLED照明についてグリーンリース契約を締結し、テナント各社様とともに電力消費量の削減を推進しています。
    ビルオーナーとテナント各社様が協働して環境負荷低減を目的に改修や運用を行うために結ぶ契約。
  3. スマートメーターの導入
    飯野ビルディングでは、テナント各社様の専有部におけるエネルギー利用量を閲覧できるスマートメーターを導入しています。また、同ビルが提供する環境性能の理解と活用促進のために、テナント各社様との間にインターネットを利用したコミュニケーションハブを構築しました。入居者専用のポータルサイトでは、視覚化されたエネルギー情報などを提供することでテナント各社様によるエネルギー利用の効率化と削減に貢献しています。