社会

人権の尊重

方針・戦略

飯野海運グループの人権方針

当社グループは、グローバル企業としてすべての人々の人権を尊重することが企業として果たすべき社会的責任であることを認識し、2022年9月に国連グローバル・コンパクトへの賛同を表明する署名を行いました。また当社の企業理念に基づいた人権に関する最上位の方針として、2022年10月27日に取締役会において決議の上、「飯野海運グループ人権方針」を策定しました。当社グループは、事業活動に関わるすべてのステークホルダーの人権を尊重し、あらゆる事業活動によって引き起こされる可能性のある直接的または間接的な人権への負の影響に対処することにより、人権尊重の責任を果たします。

飯野海運グループの人権方針PDF(496 KB)

国際的な労働基準とフレームワークの準拠

海上職員に対して「あらゆる形態の強制労働の撤廃」「児童労働の実効的な廃止」「結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認」「雇用及び職業についての差別の撤廃」を定めている2006年の海上の労働に関する条約(MLC2006)に準拠し、船員の人権を遵守しています。
また陸上職員に対しては、国内法の整備に一定の影響を及ぼす国際労働機関(ILO)が策定する国際労働基準のほか、労働安全衛生法、労働契約法に沿った労働法制として労働基準法などの各種法令を遵守しています。

労働基準に関する企業方針の伝達

雇用関係の法令遵守をはじめ、労働基準法に定められた労働時間、休日等に関する規制や年次有給休暇の取得義務化に関する改正など、人事部門が関連法令の改廃状況をモニタリングしています。

社員就業規程などの人事関連の各社規程はイントラネットに掲載しており、各自所属先の規定を常時閲覧可能としています。社内規程や人事制度等の改定については、必要に応じて労使間の定例会で説明を行うほかイントラネットに掲載し情報の共有を行っています。

国連グローバル・コンパクトへの賛同

UNGC logo

当社は、国際連合が提唱する国連グローバル・コンパクト(以下、UNGC)に賛同を表明する署名を行い、2022年9月29日付で参加企業として登録されました。

UNGCは、各企業・団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための自発的な取組みです。

当社は、UNGCが掲げる、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関する10原則に賛同し、取組みをより一層強化することによりサステナブルな社会の実現に貢献し、企業価値の向上に努めてまいります。

国連グローバル・コンパクト10原則について

人権 原則1: 人権擁護の指示と尊重
原則2: 人権侵害への非加担
労働 原則3: 結社の自由と団体交渉権の承認
原則4: 強制労働の排除
原則5: 児童労働の実効的な廃止
原則6: 雇用と職業の差別撤廃
環境 原則7: 環境問題の要望的アプローチ
原則8: 環境に対する責任のイニシアティブ
原則9: 環境にやさしい技術の開発と普及
腐敗防止 原則10: 強要や贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗防止の取組み

(出典)https://www.ungcjn.org/gcnj/principles.html#principles

体制

人権デューデリジェンスの実施

当社グループは、「国際人権章典」をはじめ、「労働における基本的原則および権利に関する国際労働機関宣言」「2006年の海上の労働に関する条約」ならびに「子どもの権利とビジネスの原則」などに規定される国際的に認められた人権を尊重し、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り事業活動を行います。

人権デューデリジェンスの仕組みを構築し、当社グループの事業活動やバリューチェーン上における、人権に対する顕在的または潜在的な負の影響を特定し、それらを未然に防止・最小化するための取組みを継続的に実施していきます。また、当社グループは、人権尊重の取組みやその進捗に関する情報を、当社Webサイトや統合報告書などを通じて適切に開示していきます。

人権リスクの特定

当社グループは、人権に関する各種規範・ガイドライン、日本弁護士連合会・外務省・法務省等の公開資料、法律事務所からの提供資料等に基づき、当社グループの事業範囲(海運業、不動産業等)にて想定される人権リスクを網羅的に抽出の上、グループ全体にヒアリングを実施し、各リスクについて「規模・範囲・救済困難度」と「社会的信用の毀損・発生頻度」の側面から点数評価を行いました。点数評価において、一定以上の点数となったリスクについてマッピングを行い、その中で当社グループにとって重要なリスクを、外部専門家の助言をもとに特定しました。

特定したリスクに対しては、対象部署・グループ会社へアンケートを実施しそのリスクの状況を確認します。

リスクが高いと判断された項目や進捗が遅れている部署・グループ会社については、追加ヒアリングを実施します。

飯野海運グループの人権リスクマップPDF(256 KB)

取組み

児童労働と強制労働の防止

当社グループでは、児童労働と強制労働を防止することを基本的な考え方としています。海上職員に対しては、「あらゆる形態の強制労働の撤廃」や「児童労働の実効的な廃止」を定めている2006年の海上の労働に関する条約(MLC2006)に準拠し、船員の人権を守ります。

また陸上職員に対しては、国内法の整備に一定の影響を及ぼす国際労働機関(ILO)が策定する国際労働基準のほか、労働安全衛生法、労働契約法に沿った労働法制として労働基準法などの各種法令を遵守しています。

さらに、採用時の本人意思確認を実施するとともに、万一の事態に備えた外部通報窓口を設置し、児童労働および強制労働の防止に努めています。

過重労働の防止および過度の労働時間の削減

当社グループでは、過重労働を防止するため、労働基本法などの国内各種法令を遵守の上、労務管理を行うとともに過度の労働時間の削減に取組むことを基本的な考え方としています。陸上職員、海上職員とも勤務時間ならびに労務管理を徹底し、長時間労働者へのフォローならびに過重労働が見込まれる管理船への追加船員の配乗等、細かな配慮を行います。

陸上職員における取組みとして、勤怠システムを利用した勤務時間のモニタリング、若手従業員への労働時間に関するヒアリング、長時間勤務となりうる従業員とその上長へのメールによる通知、長時間勤務者への勤怠システムを利用した通知と口頭での伝達、組合員の労働時間に関する衛生委員会への報告と月に1回開催する部長会への報告説明を実施しています。

海上職員における取組みとして、労働・休息時間管理システムを管理船に搭載し、船員の休息時間をモニター・管理し、改善案の検討を行っています。また、過重労働が見込まれる管理船への追加船員の配乗を実施しています。

最低賃金を上回る生活賃金の支給

当社グループでは、各国の法令に基づく最低賃金の規定を遵守し、それを上回る賃金を支払うことを基本的な考え方としています。外航船に配乗する船員についても同様に、国際的な労使間の取り決めである国際団体交渉協議会(IBF:International Bargaining Forum)の労働協約で定める最低賃金の規定を遵守し、それを上回る賃金を支払っています。

時間外労働の割増賃金については、労働基準法が定める割増賃金率を遵守し、当社の所定労働時間1日7時間を超えた法定労働時間(週40時間、1日8時間)に満たない所定時間外勤務は一定の割増率で計算しています。また、日本国外で働く当社従業員には、国内で勤務する社員と同等の購買力を赴任国において補償するという基本的な考えのもと、日本での生活費相当額に勤務地の生計費指数と為替レートを乗じた外部機関の指数データを利用し、賃金を算出した上で支給しています。

なお、当社勤務の陸上職員と海上職員183名の平均年間給与は11,433千円(2022年度)です。

事業に特有の顕著な人権課題の特定

当社グループの事業活動に影響する、以下の領域をはじめとした当社事業に関わるすべてのステークホルダーに対し、人権尊重の取組みを推進しています。特定した人権課題について、各ステークホルダーとの対話や協議を積極的に実施していきます。

従業員(陸上)

当社グループの従業員の人権を尊重し、労働基本法などの各種法令を遵守するとともに、多様な人材が働ける職場環境と制度の整備を推進しています。

外航船船員

新型コロナウイルス感染症拡大への水際対策として、各国の検疫強化や移動の制限が行われた結果、船員の交代が難しくなり、本来の乗船期間(約6カ月)を超過する長期乗船の問題が発生しました。長期乗船により肉体的、精神的な負荷がかかり、航海の安全が脅かされる恐れがあるため、船員交代を第一に考え、本来の航路から外れた船員交代可能国への直接寄港を実施するなどの対策を講じました。また、船員交代時に感染症が船内に持ち込まれることを防ぐため、交代要員の乗船前のホテルでの待機などを定めた手順書を整備し、船内感染蔓延防止に努めています。

一方、海の働き方改革の一貫として船上でのコミュニケーションを重視し、①SPEAK UP(部下からの積極的な提言を聞く)、②LISTEN UP(上司が部下の意見を聞く)姿勢の浸透に力を入れ、さらに、継続した労務環境の改善のために船員との対話を推進しています。

取引先(サプライチェーン)

事業を行うすべての国・地域において取引先の人権を尊重します。どの取引先とも常に対等の立場で誠心誠意かつ親切丁寧に応対するとともに、取引先のプライバシーの尊重、個人情報保護を徹底しています。

グループ役職員への人権尊重の啓発

グループ役職員に対して、人権に関する教育と研修を行い、人権方針の遵守および人権尊重の取組みを徹底していきます。中期経営計画において、人権に関する研修受講率をKPIに設定し、2023年度から2025年度の目標値を毎年100%としています。研修では、企業を取り巻く環境や動向や「ビジネスと人権」についてなど基本的な内容から、児童労働・強制労働や差別・ハラスメントなど特定した人権リスクについての解説など、当社グループの取組みをグループ役職員へ説明しました。

また、国連グローバル・コンパクトの賛同に合わせて、社内コミュニケーションの媒体であるイントラネットに、コンプライアンス講習「人権侵害の防止」のeラーニング研修動画や人権の尊重を明記した人権方針を掲示し、すべてのグループの役員と従業員に対する人権尊重の周知を行っています。

英国現代奴隷法への対応

当社グループは、英国法「Modern Slavery Act 2015」への対応として、当社Webサイト上に"Slavery and Human Trafficking Statement"(奴隷及び人身取引に関する表明(仮訳))を以下の通り開示しています。

飯野海運株式会社 奴隷及び人身取引に関する表明 2022年度(仮訳)PDF(864 KB)

人権に関する取組みについての有識者コメント

立教大学
副総長
松井 秀征 氏

【略歴】

1994年東京大学法学部卒業、1996年同法学政治学研究科修士課程修了。

立教大学専任講師、助教授、准教授を経て、現在立教大学教授。専門は、商法、会社法。

法制審議会商法部会(船荷証券等関係)幹事、同(運送・海商関係)幹事、サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会 委員等を歴任。

著書等として、『会社法〔第5版〕』(有斐閣、2021年、共著)、『株主総会制度の基礎理論』(有斐閣、2010年、単著)など。

立教大学の松井教授より人権尊重をめぐる動向や海運業界・不動産業界を取り巻く環境、そして当社グループの取組みについてコメントを頂きました。コメントはこちらよりご覧いただけます。なお、本コメントは2023年5月末公表時点の情報に基づいています。