ガス船って?

長い歴史と経験、技術力に裏付けられた安全で安定的な輸送サービスを中長期契約を中心に幅広く営業展開

飯野海運グループのガス船は、1960年に竣工した国内初の加圧式内航ガス船「桃邦丸」で内航LPG輸送を手がけたことに始まりました。
その後、1963年に外航大型LPG船「豊洲丸」が竣工したことで大型ガス船にも進出し、業界においてもパイオニア的な地位にあります。

特徴

ガス船は、液化石油ガス(LPG)や液化天然ガス(LNG)といった液化ガスを輸送する船です。気体のままでは体積が非常に大きくなるため、加圧や冷却によって液化し、輸送効率を高めています。液体の状態を保つため、温度管理や圧力調整機能を備えた専用設備が搭載されており、輸送中の安全性と品質を確保する高度な技術が施されています。

貨物

貨物の紹介(LPG、LNG、エタン、アンモニア、その他)

LPG

LPG(Liquefied Petroleum Gas)とは、プロパンやブタンを主成分とする液化石油ガスであり、圧縮や冷却により比較的液化が容易な物理的性質を持ちます。
石油化学原料や火力発電燃料等の産業用、自動車(タクシー等)や給湯器向け用途等の業務用、カセットコンロやライター等の家庭用など幅広く利用されています。
また持ち運びの容易さから離島や山間部を含めた日本全国でボンベでの利用が普及しており、身近なエネルギーの一部となっています。加えてLPGは重油と比較して、二酸化炭素(CO2)、硫黄酸化物(SOx)及び窒素酸化物(NOx)排出量の低減が可能であり、安全かつ環境負荷の低いクリーンなエネルギーとして利用されています。

当社LPG船隊の紹介

当社グループでは、1960年代より他社に先駆けてLPG輸送事業を手掛けており、内航・外航輸送のいずれにおいても先駆者として長い歴史を築いてきました。外航LPG船は1963年の「豊洲丸」の竣工に始まり、内航LPG船は1960年に竣工した国内初の加圧式内航ガス船「桃邦丸」で内航LPG輸送を手がけたことに始まります。近年においては、従来の重油燃料に加えてLPG燃料も使用可能な二元燃料ディーゼル主機関を搭載した外航LPG船「CALLUNA GAS」が2022年2月、同「OCEANUS AURORA」が2023年3月に竣工し、2027年には氷海域を航行可能な外航LPG船の竣工を予定しています。

LNG

LNG(液化天然ガス)とは、メタンを主成分とする天然ガスを-162℃まで冷却して液化させたもので、超低温であるため、特殊な貯蔵タンクや輸送船舶が必要となります。脱炭素の潮流の中でもLNGはその経済性や環境性から今後もベース燃料としての役割を期待されており、世界各地でのLNG開発プロジェクトの進展とともに海上輸送量が増大しています。石油や石炭と比較するとCO2排出量が少なく、発電効率も高いため、再生可能エネルギーの不安定さを補う電源として利用されています。

当社LNG船隊の紹介

飯野海運グループは、1994年から大型船を中心に、LNGの国際輸送プロジェクトに参画してきました。
現在、国内外のパートナーと共同保有するLNG船は20隻を超えています。また、外航LNG船「SK SUNRISE」を皮切りに、2005年からは、国内2隻目となる内航LNG船「NORTH PIONEER」の船舶管理を行っています。LNGは脱炭素化に資する貨物であり、これまで培ったLNG輸送事業の経験を活用しながら事業拡大を図っています。

エタン

エタンは、天然ガス中でメタンの次に多く含まれる成分です。体積当たりの発熱量はメタンの約1.75倍で常温・大気圧下では気体、−90℃で液化します。
プラスチック、化学繊維、合成ゴムなど化学製品の原料であるエチレンを生産する際に使用され、従来のエチレン原料である原油由来のナフサよりも安価且つ環境にも優しいことから、注目されている化学原料です。米国でシェールガスの採掘が盛んになり、その副産物であるエタンも需要が高まり、主に欧州とアジアに輸入されています。

当社エタン船隊の紹介

当社は、2022年11月に英国の化学メーカー「INEOS Europe AG社」と99,000㎥型VLEC(Very Large Ethane Carrier)2隻に関する長期定期用船契約を締結しました。2025年と2026年にそれぞれ竣工しINEOS社に貸船されます。当社はINEOS社の新たなパートナーとして60年超のガス船事業の経験を礎にエタン輸送へ新規参入します。

アンモニア

アンモニアは、世界での年間生産量は約1.8億トンで、生産される化学品の中でも最大級の生産量を誇ります。
化学原料や肥料原料として使用されるだけでなく、燃焼時に二酸化炭素を排出しないゼロエミッション燃料や水素の輸送手段としても注目されています。

当社アンモニア船隊の紹介

2024年には世界的な船級協会である米国American Bureau of Shipping(ABS)によるアンモニア燃料船化の基礎認証を受けて設計・建設された世界初のアンモニア運搬船「GAS INNOVATOR」が竣工しました。本船は主に東南アジアから日本を中心とする北東アジアのアンモニア輸送に従事しています。当社にとっては2017年以来のアンモニア輸送事業への再参入となり、持続可能な社会の実現に向けた取組みへの思いが船名にも込められています。

その他

溶融硫黄

原油には硫黄分が含まれており、そのまま燃焼させると硫黄酸化物が発生するため、原油を精製する過程で硫黄分を取り除く「脱硫」が行われます。硫黄は加熱することで液体になり、運搬しやすくなります。この液状の硫黄を「溶融硫黄」と呼びます。溶融硫黄は、硫酸の製造原料や農業用肥料の原料に用いられています。

エチレン

エチレンは石油化学の中で非常に重要な原料の一つです。日本では原油から精製されるナフサから作られることが一般的で、船での輸送時には−100℃ほどの極低温に冷やし液化させて運んでいます。エチレンは、お菓子や生鮮食料品などの包装やレジ袋、緩衝材。界面活性剤や医療器具の滅菌剤など、様々な場面で使用されています。

プロピレン

プロピレンもエチレンと同様に石油化学を支える重要な原料の一つで、ナフサなどから精製されています。船での輸送時には圧力を加えて液体にする場合と、低温にして液体にする場合がありますが、内航輸送の場合は主に加圧して液化させています。プロピレンは、自動車の部品や電化製品、容器、洋服の繊維、スポーツ用品、文房具など多種多様な用途に使われています。

C4留分/C5留分

C4留分/C5留分もナフサから精製される原料で、留分とは液体の中にある様々な成分のことを指しています。C4留分は炭素数4個の成分が混合したもの、C5留分は炭素数5個の成分が混合したもの、という意味です。混合液体である留分から必要な成分を抽出し、製品の原料になっています。タイヤなどのゴム製品や粘着剤、合成樹脂や断熱材などに用いられています。

VCM(塩化ビニルモノマー)

VCM(塩化ビニルモノマー)は主にエチレンと塩素もしくはエチレンと塩化水素から精製され、塩ビ樹脂の原料となります。塩ビは加工の容易さと強度、耐水性を備えており、更に紫外線にも強いという特徴から、上下水道のパイプや住宅の窓、建物の内装や食品用のラップフィルムなど様々な製品に用いられています。

環境にやさしいガス

LPGやLNGのガスは燃料としても利用されており、二酸化炭素(CO2)、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)の排出量を従来の燃料油と比較して、タンク・トゥ・ウェイク(tank-to-wake)上で大幅に削減可能です。
アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を排出しないゼロエミッション燃料として期待されており、水素の輸送手段としても注目されています。

重油を100%とした場合のその他燃料のCO2削減率
重油 100%、LPG -16.4%、LNG -26.0%、エタン -18.6%、メタノール -10.8%、アンモニア -100%、

航路

外航航路

大型LPG船

中東や米国、オーストラリアから、インド、中国を中心としたアジア地域や欧州地域へLPGを運搬しています。

タイムラプス:当社運航の大型LPG船がパナマ運河を通峡する様子

内航・近海航路(アジア域含む)

内航ガス船

日本周辺海域をメインに、LNGやLPG、融解硫黄、石油化学系ガスを運搬しています。

中小型ガス船

東南アジアや日本を中心とする北東アジアにおいて、LPGや石油化学系ガス(オルフィンや塩化ビニールモノマー)を運搬しています。

事業戦略

大型ガス船

  • 事業概要

    大型LPG船(VLGC)、LNG船、大型エタン船(VLEC)等による液化ガスの輸送

  • 当事業の特色と強み

    多様な液化ガス輸送に対応可能な船隊構成と営業面及び技術面の知見
    環境負荷低減への取組みに積極的な国内外の顧客との中長期の用船契約を中心とした営業展開

大型ガス船部門は、LPG(液化石油ガス)やLNG(液化天然ガス)等の液化ガスを輸送するため、冷温に対応したタンク、ポンプ、コンプレッサー等の特殊設備を備えた大型ガス船を中心とした船隊を保有、運航しています。長い歴史と経験、技術力に裏付けられた安全で安定的な輸送サービスは国内外の顧客から評価を得ており、幅広く液化ガス事業の営業展開を行っています。当事業では「環境負荷低減への取組みに積極的な国内外の顧客との中長期の用船契約を中心とした営業展開」、「多様な液化ガス輸送に対応可能な船隊構成と営業面及び技術面の知見」の強みを持ち、今後大型エタン船(VLEC)を船隊に加える他、環境負荷低減に資する液化アンモニアや液化二酸化炭素を含む液化ガス輸送事業についても取り組んでまいります。

中小型ガス船

  • 事業概要

    中小型ガス船による液化ガスの輸送

  • 当事業の特色と強み

    多様なガス体輸送に対応
    1960年代から手掛けるガス体輸送で培った豊富な経験とノウハウ
    アジア地域における幅広い顧客基盤

2024年6月に中小型ガス船を担当するガス船第二部が設立。当社は中期経営計画において、外航ガス事業を成長・新規事業と位置付け、主要戦略の一つである中小型船への営業強化に取り組んでいます。新たに設立したガス船第二部にて、中小型船分野におけるグループ内関連組織の連携を強化の上でシナジーを意識した営業戦略を推進し、東京・シンガポールを主たる営業拠点として貨物・顧客の更なる多様化や一層の船隊拡大を図ります。

内航ガス船

  • 事業概要

    小型タンカーによる内航・近海エリア輸送(液化ガス等)

  • 当事業の特色と強み

    内航液化ガス輸送業界のパイオニアとしての優位性
    船舶所有、保守・管理、船員配乗まで自社一貫体制による総合輸送サービスの提供
    業界最大規模の自社日本人船員を雇用

小型ガス船部門は、2007年に営業部門(本社)と船主部門(関係会社)を統合し、飯野海運100%子会社「イイノガストランスポート株式会社(以下、IGT)」として設立しました。小型タンカーを用い、内航・近海エリアで液化ガス等の輸送を行っており、事業の強みとしては「内航液化ガス輸送業界のパイオニアとしての優位性」、「船舶所有、保守・管理、船員配乗まで自社一貫体制による総合輸送サービスの提供」、「業界最大規模の自社日本人船員を雇用」等があり、飯野海運グループの内航水域における小型ガス輸送の担当部門として、また近海水域においてはグループ内関連組織との連携を強化して、顧客のニーズに迅速・的確に対応し、高品質でより安全なサービスを提供しています。