海上職座談会
気心の知れた
仲間と過ごす船の上。
そのやりがいと楽しさは格別。
海上職として働くとはどういうことか。乗船してみて驚いたこと、仕事のやりがい、船上のライフスタイルなど、さまざまな角度から迫ります。ジョブローテーションにより、現在は陸上勤務の航海士1名と機関士2名が、ざっくばらんに語り合います。
Member Profile
T.N
イイノマリンサービス株式会社出向 海上人事部
※2021年まで二等航海士
2015年入社
K.S
飯野海運株式会社 海務部 海務安全課
※2021年まで二等機関士
2014年入社
T.S
イイノマリンサービス株式会社出向 検船課
※2020年まで二等機関士
2015年入社
Topic01
入社理由
人柄の良さと、飯野海運の独自性が
もたらす安定性に惹かれて。
T.S
実は今回集まった3名は、海洋系の同じ大学出身。在学中からの顔見知りです。K.Sさんと私は同じ機関士ですが、当時から部活が一緒でした。航海士のT.Nさんとは研究室がある建物が一緒でした。改めてキャリアを振り返ってみましょうか。
T.N
では、まず入社の経緯から。私は航海士志望で、タンカーに乗りたかったんです。危険物を積んでいる分、他の船種よりも作業が難しく、航海士としての価値を高められると考えました。そこで、当時から「タンカーの飯野」で知られていたこの会社を選びました。入社してみると、実際にタンカーへの乗船機会が多く、専門の技術も磨くことができています。
K.S
私は「安心感」に惹かれて入社しました。ちょうど大学入学前にリーマンショックがあり、海運業界も厳しい状況に見舞われました。そんななか黒字を維持していたのが飯野海運。その事実に驚き、経営の舵取りが上手な会社という印象を持つようになったんです。選考の過程でも、人事の方がとてもフレンドリーで、威圧的なところが全くない。会社の雰囲気にも安心できたことが決め手になりました。
T.S
私の入社経緯はちょっとイレギュラーかもしれません。もともと大手電機メーカーで働いていましたが、小さい頃から胸に秘めていた「船乗りへの憧れ」が抑えきれなくなり退社。海洋大学に入り直し、33歳のときに飯野海運に入社しました。K.Sさんが言っていた経営の安定性は、すでに妻子のいた私にとって切実でした。それに、年齢の面をマイナス要素とせず、人柄を見てくれたことにも惹かれました。
Topic02
入社後の“ギャップ”
外国人クルーとの英会話に悪戦苦闘。
港では意外と、楽しむ余裕がない。
T.N
入社後、新入社員研修を挟んで3ヶ月目くらいに乗船しましたよね。海上職として働きはじめて、ギャップを感じませんでしたか?
T.S
かなりギャップがあった(笑)。学生時代の乗船実習では、担当教官に引率されるまま、課題をこなしていただけ。でも実務だと乗った瞬間、サードエンジニアとして責任を果たさないといけない。緊張感が全然違います。機器を壊さないように、事前にちゃんと調べるなど、主体的に動くようになりましたね。
K.S
あと、練習船は全員日本人ですよね。でも実務では混乗船なので、英語のコミュニケーションが日常になります。そこに面食らいました。
T.N
わかります。私も一番苦労したのがコミュニケーションでした。私が乗った船では、航海士はフィリピン人クルーと2人1組になり当直をするのですが、その相方と会話が上手くできないのに加え、陸上との無線越しの会話コミュニケーションもできない。慣れるまでは大変でしたね。でもだんだんと聴き取れるようになっていくんですよね。すると、実は至ってシンプルな会話が交わされていることに気づく。なんだ、たいしたことないじゃないかと(笑)。それがわかってからは、自信をもって話せるようになりました。
K.S
最初はリスニングもスピーキングもお手上げで、ボディランゲージのみ(笑)。でも私もだんだん聞き取れるようになって、言葉も通じるようになっていきました。
T.N
ギャップといえば、もうひとつあります。船乗りになる前は入港したら遊びに繰り出すのかなと思っていましたが、現実は全く逆だったことです。実は入港前って、これから忙しくなるぞと覚悟を決める場面だったりする。むしろ、港から出たときにリフレッシュするんです。それが面白いなと思いました。エンジニアも同じ?あれ、違う?(笑)
T.S
エンジンのほうは港でやる作業はあまり多くないですね(笑)。入港中は、航海士のほうが忙しいかもしれません。
K.S
そうですよね。上陸できる港なら遊びに行くこともあります。限られた短い時間を楽しもうと。
T.N
航海士のほうは真剣な面持ちで入港するのに(笑)。
T.S
でも上陸時間も短いし、たいていスーパーで買い物して終わり。年を追うごとに、船にいたほうが楽かなと思うようになっちゃっていますね(笑)。
Topic03
航海士・機関士のやりがい
共通するのは、大きなリスクを
回避したときの達成感。
T.N
機関士のお二人は、どんなときに仕事のやりがいを感じますか?
T.S
私は大きな作業を終え、試運転してうまくいったときです。特に印象的だったのは、ピューリファイヤーという清浄機と格闘したとき。燃料を使う際に不純物を除去するためにこの機器を使用するのですが、このときは燃料が粗悪で、大量のスラッジが発生してしまったんです。スラッジが多いと詰まってしまうので、除去しなければなりません。一週間くらいつきっきりで対応したのですが、油作業で身体が四六時中ベトベトになって、もう悪夢のようでした(笑)。でもそのおかげで、ピューリファイヤーの構造を覚えましたし、解決できたときの開放感は最高でした。
K.S
私がやりがいを感じるのは、事前に機器の不調を見つけて対策を打ち、大きな故障を未然に防げたときです。あとは、下船時に乗船時よりも機器の調子が良くなっていたら達成感があります。航海士のやりがいはいかがですか?
T.N
航海士の仕事は大きく2つあります。ひとつは「航海当直」といって船の操船。もうひとつは港で油やガスの陸揚げを監督する「荷役」です。「航海当直」のやりがいは、操船を船長に任されたとき。私の乗っていたタンカーは中東と日本のピストン輸送が多いのですが、その中でも船舶の多いポイントがいくつかあって、衝突のリスクを回避しないといけません。もちろん、最初の頃は船長が必ず見守ってくれます。ところがあるとき、「あとはよろしくね」と任される。それは信頼してもらっている証。成長を実感する瞬間です。もうひとつの「荷役」のときも同じで、当直を一人で任されたときは嬉しいですね。無事、荷役が終わって出港するときは、やりきった開放感でいっぱいになります。
K.S
航海士の皆さんがやりがいを感じるのって、大海原で操船しているときではないんですよね。
T.N
そうなんですよ!見渡す限りの大海原をポツンと走っているときは、意外と気持ちが盛り上がらない。それよりは漁船がいっぱいいる中を縫うように走る場面のほうがやりがいを感じます。
Topic04
海上職のライフスタイル
日本人が固まって
乗るからこその“ホーム感”。
T.S
船の上の生活にはやはり特別なものがありますよね。例えば、各国の港に行くたびに、外国の空気を味わえます。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、中東、シンガポールなどなど。特にカナダの港は絶景でした。カレンダーで見る景色そのままに、岩山があって針葉樹があって。初めて見たときは本当に感動しました。あと、船の横をイルカが大量に泳いでいたり、大洋航海中に夜の空を見上げると、星空がものすごくきれいだったり。乗船中はそういった景色の一つ一つに癒やされます。
K.S
エンジニアは機関室にこもりますからね。仕事終わりにデッキに出ると、何気なく見た雲にすら感動しちゃいます。「なんてすごい雲の形なんだ・・・」と(笑)。
T.S
「こんなに空が青い・・・」とか(笑)。
T.N
乗組員同士で過ごす時間も格別です。飯野海運の大きな特徴として、日本人を固めて乗せる方針があります。他の会社だと日本人が1名のみということもありますが、うちの会社はどの船に乗っても8人前後はいます。やはり日本人から教えてもらえるほうが、その場で疑問を解消できるので、仕事の習熟度は上がります。成長しやすいという点でも、気心のしれた仲間ばかりの楽しさという点でも恵まれています。
T.S
日本人が乗るのは4隻と決まっています。しかもご飯がすごく美味しい。日本食も多い。長い航海なので、ご飯が口に合う、合わないはとても大事。
K.S
家で食べるご飯が好きですが、正直それを超えてくる美味しさ。
T.S
あと、毎週土曜が鍋の日で、その日がめちゃくちゃ楽しみ。
T.N
私も好きです。盛り上がりますよね。大型テレビのある談話室でカラオケをしたり、映画を見たり。
K.S
学生に戻ったみたいに盛り上がる。陸に比べたら当然、娯楽が少ないから、そういったことが本当に楽しい。
T.N
人間本来の感受性が戻るというか。陸だと飽きている娯楽でも、船の中では夢中になる。減量中のボクサーが、久しぶりに豪華な食事を前にしたときみたいに(笑)。
T.S
陸だとテレビはほぼ見ないけど、船だとドラマをついつい見ちゃいますね。もう楽しくてしょうがない(笑)。とはいえ、長い航海を終えて下船するときは、やはりとても楽しみです。「下船パワー」と呼んでいますが、疲れも吹っ飛んでやる気が出てくる。降りる前に船をきれいにして、真っ白な状態にすることを心がけています。次の人が気持ちよく乗れるように。もし不具合があれば、それも可能な限り完璧に直す。
K.S
「この不具合は私で終わらせないと」って思いますよね。長期休暇は海上職ならではの制度です。その間、仕事から完全に離れて、ずっと家族といられますし、長期で旅行にも行けます。
T.N
乗船期間の半分休めるとすると、4ヶ月乗ったら、次の航海まで約2ヶ月間休める。
T.S
ふつうの仕事にはない大きな魅力です。6ヶ月ドカンと休んだこともあります。たぶん近所の人からはびっくりされていますけどね。子どもと毎日公園で遊んでいて、「またあの人来てる。大丈夫かな・・・」と(笑)。今は子育て中ということもあって陸上勤務をさせてもらっています。そうした希望を聞いてもらえるのも、飯野海運の海上職で働く魅力ですね。